冴えない彼女の育て方13巻 感想
- 2017/10/21
- 17:50
昨日10/20、とうとう冴えない彼女の育て方の最終巻が発売されましたねー!

個人的に納得のいく終わり方であったことと、改めてこの作品の特異性に関心させられた13巻でした。
まずは軽く“特異性”という話に触れておくと、冴え彼女は物語を作るキャラ達をさらに上の次元(現実の作者)から描かれた作品ですよね。
つまりはキャラクターであるはずの登場人物たちが、更に物語を作ってキャラを動かすという二重構造になっています。
これは別段珍しくないと言いますか、まぁ他に例がないこともない。
しかし、今回倫也くんたちが描いた話はどうだったでしょうか。
彼らが描いている作品は自分たちの投影であり、そこに出てくる登場人物達もまたゲームを作成している。
キャラがキャラを描いて、そのキャラがまたキャラを描くという事態が発生しているのです。
それでは倫也君および加藤恵ちゃん達が描くゲームに出てくる、巡璃ちゃん達はどんなゲームを作っていたのか。
これもまたゲームを作る自分たちをテーマにしたシナリオですよね。
作者がキャラ(加藤恵)を描いて、キャラ(加藤恵)がまたキャラ(巡璃)を描いて、そのキャラ(巡璃)もキャラを描いていて、そしてそのキャラも・・・と
無限に続く覗いてはいけない深淵が広がっているように感じました。
この点は考えてもきりがないし、別段この作品の本質でもない、恐らく作者自身も気づいていないことだと思うので
作品の魅力や特徴として語るのではなく、ただ“特異性”として話すにとどめておきたいと思います。

次に納得のいく終わり方だったという部分について、お話していこうと思うのですが
まず前提として僕は澤村・スペンサー・英梨々を推しています。
言わずもがな負けヒロイン確定の歩みを進めてきたキャラクターですよね。
だから僕が最も強く抱いていた関心事としては、英梨々及びその他のヒロインの扱いをどうするのか、ということでした。
ただ加藤恵と結ばれて終わるだけでは、個人的に許せなかったのです。
それでは、この最終巻において英梨々はただのよくある負けヒロインで終わったか―――否、倫也くんが恋心を抱いた対象として書かれていました。
初恋の相手として倫也君は認め、そして英梨々もそれを認識して、最後にお互い別の方向をむいて歩いていく。
英梨々と結ばれなかった結末に主人公は後悔を隠しきれず、涙と共に感情を吐露したシーンは非常に印象的で、予想外にファンを納得させてくれたシナリオだったと思います。
道を踏み間違えなかったら、英梨々と結ばれる世界があったんだろうな、と切なくもどうしようもない恋の終わり。
報われなかった最後のヒロインの表情もシナリオに合致する渾身の挿絵でした。
「誰かを選ぶってことは、誰かを選ばないってことだ。」と、どこかの偉い人も語るように
加藤恵を選んだ結末にのみスポットライトを当てるのではなく、残りのヒロインとの関係性も、読者がそれを読んで胸が締め付けられるような終わり方で締めくくったのは本当に素晴らしいと思わざるを得ない。

納得のいく終わり方だったという点ではもう一つ、加藤恵及びエピローグについても触れて置かなければならないでしょう。
何もしていない主人公が将来まで約束された、希望に満ち溢れた終わり方をするのはおかしい、
と詩羽先輩に語らせた通り、
倫也くんは浪人し、加藤恵は大学進学。
そして互いに好きな気持ちを確かめつつも、特別関係性を進展させることも無く、何気ない会話でエピローグを締めくくりました。
幸せな後日談は絵空事に感じられる、という作者の自論を理解していたからこそ、納得して読み終えることが出来る終わり方でしたね。
詩羽先輩にその一節を語らせていなかったら、もしかすれば僕は腑に落ちないエンディングに感じていたかもしれません。

このようなストーリーは、消費する側に限りなく近い視点を持ちながら作家を務めてみせた、丸戸さんの凄さによるものだと思います。
今まで散々語ってきたことに加えて、
“王道”(毒舌黒髪お姉さん&ツンデレ金髪ツインテール)を敢えて採用しながら、それを“ありきたり”として終わらせなかった点
あるいは加藤恵という普通の女の子を最も魅力的なヒロインに昇華させてみせた点
加藤恵と霞ヶ丘詩羽先輩、澤村・スペンサー・英梨々が互いの性格に引っ張られながら独自のキャラに変貌していった関係性等
素晴らしい点を挙げればきりがない。
二次元キャラクターに対する理念をとことん追求して書き上げられた作品、それが『冴えない彼女の育て方』だったように感じます。
最高の“萌”を与えてくれた丸戸さんには感謝ですね。
次作を書かれるのかは分かりませんが、キャラの可愛さを突き詰めた境地に辿り着いた丸戸さんでしたら
またどうしようもなく心の惹かれる作品を生み出してくれるでしょう(*^_^*)
